魂が呼び合う

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「た……だいま」 気恥ずかしさを押し殺して、おずおずとアトリエに足を踏み入れると、ビックリ顔の阿久津先生と目が合った。 途端に真っ赤になったということは、先生も今の会話を私が盗み聞きしていたことを悟ったのだろう。 「ごめんね。生温かい目で見守ってきたけど、荒療治のバイトをさせても進展がないからイライラしちゃって」 山岸社長がてへぺろみたいな顔でサラッと言った。荒療治ということは、芹沢氏のお触りも全部社長の計略だった? あの日に限って先生を呼び出したのも、おいたが過ぎても助けてくれなかったことさえ計算の内? 「美桜ちゃん、ずっと誤解してたようだけど、友則と私はそういう仲じゃないからね。昔も今も男女の関係になったことは一度もない」 「え? だって、じゃあ、あの裸婦は?」 「ああ、あれね。夜な夜な美桜ちゃんの裸を妄想しながら描いたんでしょ? 後ろ姿だけなんて情けない。私がモデルだったら、ちゃんと前から描けって言うわよ」 社長は自信たっぷりの顔でウインクした。 「裸婦画は一枚も売らせてもらえなかったわ。それって美桜ちゃんに対する独占欲よね。怪我をした美桜ちゃんを見て友則がショックを受けたのは、無垢な美桜ちゃんもいつかは誰かに穢されると気付いたからだけじゃない。自分が穢したいと思ってしまったからなんでしょ?」 急に真顔になった社長の強い視線が、何も答えない阿久津先生を射抜いた。 「惚れた女を手に入れて、スランプなんて吹き飛ばしちゃいなさいよ!」 先生の背中をバシッと叩いた社長は、またねと手を振ってアトリエを出て行った。 後に残されたのは、落ち着かない様子でアトリエをウロウロ歩き回る先生と、一歩も動けない私。もう丸二年も二人だけで暮らしてきたのに、こんなに気まずい雰囲気になったのは初めてだ。 でも、せっかくここまで社長が導いてくれたんだから、一歩を踏み出したい。 「……私が彼氏が出来たなんていう嘘をついたのは、こんな醜い傷があっても私は幸せなんだと先生にわかって欲しかったからです。先生の罪悪感を払拭したくて」 「俺はおまえの身体を醜いと思ったことは一度もない」 途端に涙が溢れたのは、ずっとそう言って欲しいと願っていたからだ。 「私を描いてくれますか? まだ誰にも穢されていない、先生のためだけの私の身体を。正面から」
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