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適当に”お触り”させて、客にいい気分になってもらう。
少し”おいた”が過ぎると感じたら、山岸社長がやんわりと止めに入ってくれる。
それがいつもの”接待”なのに、今日の社長は止めてくれなかった。先ほどの芹沢氏の『若さに溢れている』発言でへそを曲げたのかもしれない。
社長が助けてくれないのなら、自分で何とかするしかない。
下着の中に侵入して来ようとする芹沢氏の手を、必死に掴んだ時だった。
「失礼します」と女将の声がかかると同時にスッと開いた襖の向こうに、背の高い阿久津先生の姿が見えた。
家にいる時のように長めの髪はボサボサ。無精ひげが伸びていて、コートの裾から覗いたチノパンは絵の具で汚れていた。
とても高級料亭には似つかわしくない風体だが、門前払いを食らわなかったのは先生の整った顔立ちと品のいい物腰のおかげかもしれない。
「遅くなりました。阿久津 友則です」
静かにそれだけ言うと、阿久津先生はギロリと私を睨んだ。
接待で私がどういう役割を果たしているかは、先生の与り知らぬことだ。社長も私も先生にはひた隠しにしていたから。
それでも、不自然に私に擦り寄った芹沢氏と、その手を掴んだままの私を見れば、おおよその見当はついたのかもしれない。
家族同然の先生に自分の女の部分を垣間見られてしまったのは、とてつもない羞恥を感じることだった。
それでも、知られたくなかったという思いとは別に、それを知って先生がどうするか試したいような気もした。
「ほう! ずいぶんお若い。うちの娘と同じぐらいですかな。芹沢です」
簡単に名乗った芹沢氏の言葉に私の方が驚いた。この人に娘がいるなんて。そもそも結婚していることすら知らなかった。
しかも、その娘が先生と同じぐらいの歳だということは、この男は娘よりも遥かに若い女に手を出そうとしていたということになる。
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