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一方新太郎は両親の言い付けを守らず、人目を忍んで八重と会い続けた。
しかし日に日に進む結婚の話。
このままでは両親の決めた娘と結婚させられてしまうと思い、家を捨て八重と2人遠くの町へ行くことを決めた。
駆け落ちだった。
最初は戸惑っていた八重も、新太郎の真剣な思いに心を動かされ共に町を出ることを決めた。
約束の日時は、朔日の深夜。
夜の闇が一層深くなるこの日に、夜の闇に隠れながら町を出るつもりだった。
待ち合わせの場所は、あの町外れの桜の木だった。
当日、先に着いたのは八重だった。
八重は桜の木に身を隠すようにしゃがみ、見事に花を咲かせる桜を見上げていた。
夜の寒さに身を震わせ、体をさすっていると此方に近づいてくる足音が聞こえた。
新太郎が着たのだと思い立ち上がり、桜の木から姿を見せるとそこにいたのは見知らぬ男だった。
そして次の瞬間、腹に激痛を感じて視線を落とす。
すると八重の腹に小刀が刺さっていた。
八重は目の前の男に刺されていたのだ。
男は震える手で小刀を持ち、目から滝のように涙を流していた。
「すまない…、すまない…。でも、こうするしかないんだ。……、すまない。」
そう言いながらゆっくりと小刀を引き抜き、地面に落とした。
そして一目散にその場から逃げ去った。
八重は木に背を預けながら腰を下ろした。
腹からどんどん血が出て、着物を真っ赤に染めていく。
腹を押さえていた手を見ると、流れ出す血の多さを感じるほど真っ赤になっていた。
そんな状態にも関わらず、八重は新太郎に会いたいと願った。
一刻も早く会いたいと、町に向かって地を這うように進んだ。
新太郎は家の者の目を盗むのに時間がかかり、待ち合わせの場所に行くのが遅れていた。
やっと桜の気が見えてきた頃、何かが地面を動いているのが見えた。
嫌な予感がして、駆ける足を更に速めた。
倒れていた人を抱き起こすと、それは腹から血を流した八重だった。
「八重!八重!何があったんだ!?どうして、どうしてこんなことに…。」
「新…太郎さ…。会えて…、良かった…。」
力無い声で囁き、弱々しく震える手を新太郎に向かって伸ばす。
その手取って、力強く握る新太郎。
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