1年でたった1日

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「貴方に会えて…、本当…、良かった。愛して、います…。ずっと…。」 「八重?八重!駄目だ!逝くな!」 まるで死を悟ったように微笑む八重の体を、必死に揺すった。 しかし彼女は新太郎の腕の中で、幸せそうな笑みを浮かべながら息を引き取っていった。 「八重…、八重…。目を開けてくれ。頼む…!」 泣きながら徐々に冷たくなっていく八重の亡骸抱きしめ、その場を動けない新太郎。 そんな彼のもとに、誰かが近づいてくる。 提灯の灯りに照らされた姿は、身なり良い男。 「新太郎様。新太郎様。」 名前を呼びながら肩を揺するものの、全く反応しない新太郎。 「新太郎様、この様なところにいては行けません。早く屋敷に戻りましょう。」 「嫌だっ!俺はどこにもいかない。このまま八重と一緒にいさせてくれ…。」 「なりません。どうか、お許しください。」 そう言うと、身なりの良い男は新太郎の首に鋭い一撃を浴びせた。 新太郎はその場で意識を失った。 男は八重をその場に置き去りにし、新太郎だけを抱えて町に戻った。 新太郎が目覚めたのは場所は、自室の布団の中だった。 急いで身を起こすと、首に激痛が走った。 外を見ると太陽は随分高く、昼過ぎだということはわかった。 血まみれだったはずの体は綺麗なっていて、着物も取り替えられていた。 昨日の夜のことは悪い夢だったんだろうか。 そう思いたかった。 しかしあれは現実だったとどこかではわかっていた。 「新太郎様、お目覚めになられましたか?」 襖を開けて現れたのは、昨夜新太郎のもとへ来た身なりの良い男だった。 この男は新太郎の家で雇われ、新太郎の一家の身の回りの世話をしていた男だったのだ。 新太郎は男の顔を見ると鬼のような形相になり、布団から飛び出て男に掴みかかった。 「貴様!よくも何事もなかったようにっ。八重をどうした!あれもお前の仕業なのか!」 衿を掴んで激しく揺さぶられようとも、男は何も言わず顔色1つ変えない。 そのことに苛立ち、男を殴ろうと腕を高く上げた。 「何をしているのですか、騒々しい。あなたは下がりなさい。」 新太郎の部屋から怒鳴り声が聞こえた新太郎の母親がやって来たことで、新太郎は動きを止めた。 男は新太郎の手を振りほどき、母親に頭を下げその場を後にした。
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