girl-side

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「あ、井原じゃん」 偶然を装って声をかけると、井原は振り返って階段にいた私を見上げた。 紙袋の上の方には唯一の箱と、印をつけた袋。それを見てから階段を降りて、立ち止まってくれた井原のそばに立った。 「部活に行く途中?」とわかりきってることを訊いた。だって間が持たなかったんだもん。とっさに出てきただけ私は自分を褒めたい。 井原は「そうだよ」と首を縦に振った。 「あ、チョコ、もらえた?」 スムーズに言葉が並ばない。 緊張してんのばれる。でも、話せたことが嬉しいのか、私の表情は憎らしいほど素直だった。 口角が上がる。 井原は「もちろん」と答えた。 ちょっとムキになってて、実はそこまでもらえてないのでは?と勘ぐってみたくなる。 どっかの秋本と違って、井原は自分からもらいに行くような性格じゃないだろうし、仕方ないんだろうけど。 変わってないね、と言いかけて飲み込んだ。 本題にさっさと入らないと、多分私逃げる。 「じゃ……」と前置きをしながら、私は紙袋から今日のために用意した、それを取り出す。今年作った、唯一のチョコレート。 「私も貢献してあげる」 もらって、なんて素直にいえない。 井原は私が取り出した箱と袋を交互に見て、首をかしげた。 「右か左、好きな方を選んで」 どっちもいらないなんて断ってくれるなよ。 そう念を込めた。
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