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右手に箱。
左手に袋。
変に意識してるのが自分で恥ずかしくて、袋の目印を隠した。
「袋か箱の違い?」と尋ねられて、私は少し考えてから首を横に振る。
確かにそうだけど、ごめんね、中身同じなの。
どっちも本命。
君のために作った。
なんて口が裂けても言えるわけがない。
「本命か、義理」
箱が本命。袋が義理。自分が今、この場で決めたその選択肢。
中身が同じなのをしってるくせに、箱のほうが別のものにみえてくる。
井原は目を丸くしたその表情で私を見た。
そりゃそうだ。好意なんて一切みせたことない。そんな女子の口から『本命』の言葉が出たんだ。
「さぁ、どっちがいい?」
催促するようにそう言った。
「え」と困惑した井原は左右を確認して、箱に少し目をとめた。
「左で」
「はーい。ヘタレな井原君には義理チョコをプレゼント」
そんなこと言いながら、私はとうとうチョコを渡した。
ごめんね、ヘタレなのは私。
「好き」っていえない私。
だましちゃったけど、受け取ってほしかった。
久しぶりの会話なのに、自分からすればただの告白で。
なのにもかかわらず、私よりもおどおどした井原の態度がおかしくて、笑いそうになる。
「じゃ、ホワイトデーの返し、よろしく」
箱を紙袋に戻して、私はその場をすぐに去った。
やっちまったの一言が私を埋め尽くす。
たくさんの人にクッキーをあげてたから、もしかしたら井原にもそのことは伝わってるかもしれない。
なのにチョコが入ってるって気づいたら、どう反応するんだろう。
気づかれるかな。
あーでも、それも悪くはないのかもしれない。
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