girl-side

6/6
前へ
/12ページ
次へ
右手に箱。 左手に袋。 変に意識してるのが自分で恥ずかしくて、袋の目印を隠した。 「袋か箱の違い?」と尋ねられて、私は少し考えてから首を横に振る。 確かにそうだけど、ごめんね、中身同じなの。 どっちも本命。 君のために作った。 なんて口が裂けても言えるわけがない。 「本命か、義理」 箱が本命。袋が義理。自分が今、この場で決めたその選択肢。 中身が同じなのをしってるくせに、箱のほうが別のものにみえてくる。 井原は目を丸くしたその表情で私を見た。 そりゃそうだ。好意なんて一切みせたことない。そんな女子の口から『本命』の言葉が出たんだ。 「さぁ、どっちがいい?」 催促するようにそう言った。 「え」と困惑した井原は左右を確認して、箱に少し目をとめた。 「左で」 「はーい。ヘタレな井原君には義理チョコをプレゼント」 そんなこと言いながら、私はとうとうチョコを渡した。 ごめんね、ヘタレなのは私。 「好き」っていえない私。 だましちゃったけど、受け取ってほしかった。 久しぶりの会話なのに、自分からすればただの告白で。 なのにもかかわらず、私よりもおどおどした井原の態度がおかしくて、笑いそうになる。 「じゃ、ホワイトデーの返し、よろしく」 箱を紙袋に戻して、私はその場をすぐに去った。 やっちまったの一言が私を埋め尽くす。 たくさんの人にクッキーをあげてたから、もしかしたら井原にもそのことは伝わってるかもしれない。 なのにチョコが入ってるって気づいたら、どう反応するんだろう。 気づかれるかな。 あーでも、それも悪くはないのかもしれない。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加