サクラ

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その木は毎年春になると、まるで祖父の言葉に応えるかのように、淡いピンク色の花を綺麗に咲かせている。 だから毎年春には、僕は、父と母と共に、祖父の家で花見をする習慣になっていた。 淡い色の花弁が静かに舞い落ちる中、母が作った弁当を食べる。その時には祖父も、口数少なく、父と酒を酌み交わすのだ。 僕はそんな光景を見るのが大好きだった。 しかし今年は違った。 昨年、夏頃から体調を崩していた祖父は、入退院を繰り返した後、年が明けてから余命宣告を受けた。 祖父は末期の場所に自宅を選び、僕達家族は、特に僕は毎日、祖父の家に通った。 その度、布団に臥せっている祖父は、まだ花を付けない木をじっと見つめているのだ。 僕は、せめて花が咲くまで、祖父の命が続く事を願っていた。
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