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プロローグ
旅行に行く前の週、俺は風邪で寝込んでいた。
39度もある高熱で、しかたなくバイトを休まざるを得なかった。
シフトを代わってくれる人を探してみたものの、10人中、9人に断られた。しかも代わりに入ってくれた1人は高校生の女の子で、掛け持ちしているバイトの後に出てくれるというのだ。
なんだか申し訳なかったが、何はともあれシフトの穴埋めはできたのでパートリーダーの加納さんに連絡を入れた。一応承諾はしてくれたもの、静かな言葉で説教された。
「1人が休むことでお店の売り上げが下がり、それがお店の信用を失うことにも繋がります。野村さんにはそのことを今1度考えてほしいです」
と言われた。
母が以前、アルバイトが休んだ時にお店の利益の話をするところはブラックバイトだという記事を新聞で知ったらしく、「あんたも気をつけなさい」と言っていた。
だがそういう風に、アルバイトに話して良いこと、悪いことを企業やアルバイトが知らないことも多いらしい。それに今働いている職場がブラックバイトだとは俺は思っていない。
普通に社員の人は優しいし、怒るというよりもその人に考えさせるような諭し方をするので頭ごなしに怒ったりはしない。バイト仲間も良い人たちだし、環境には恵まれていると思う。
仕事とは本来辛いものだから、何をブラックとするかは判断しかねるところだ。その人と仕事の相性もある。
とまあ、こんな風に働くことについて真剣に考えるようになったのも、就活を初めてからだ。
俺の代から就活の時期が早まり、3月から本格的に就活を始めることになった。そして今は8月の中旬だが、残念なことに未だに内定はもらっていない。
毎日メールや手紙で「お祈りの言葉」を送られてくると、さすがに心も折れてくる。しかもこれから企業の募集も少なくなるから焦ってもいた。
近々、他の企業の説明会や選考が立て続けに控えている。学校やバイトは休んでも、それだけは休むわけにはいかない。次の説明会まであと2日は猶予がある。それまでに風邪を治しておかなければならないのだ。
とはいえ、扁桃腺はしつこいから時間がかかるだろう。もしかしたらマスクと冷えピタをして説明会や選考に行くことになるかもしれない。
そうならないためにも、他の予定はキャンセルしてでもゆっくり休めなければ。
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