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口では変態と罵りつつも、今日一日考えた結果やっぱりぶつかったのは私の方で、つまりよそ見をしていた私が悪いんだと思っていた。
思ってはいたけど、そんな事より気になったさっき聞こえた名前。
「千春って、お父さんの名前……」
ちはる。お母さんが昔から「お父さんの名前、可愛くていいわよねぇ」なんて言ってたりする。
煙草を指先に挟めながら口元を片手でおおった男は、明らかに"しまった"という顔をしていた。
気まずそうに視線を反らす男は、一度桜を見上げてから「じゃあな」と立ち去ろうとする。
「えっ、ま、待ってください!」
呼び止めてどうしようというのか。私にもさっぱりわからなかった。でもこの男はもしかしたら、ここで父を待っていたのかもしれない。という事はもしかしたら、父がもうここには来ない事を知らないのかもしれない。
ならば私は父の娘として、父がここには来れない事を伝えなければならないんじゃないかと、思った。
「お父さんの、知り合いですか?」
男は今朝もしたように、頭をガシガシと掻いた。
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