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くわえていた煙草を携帯灰皿に押し付けて消したかと思うと、すぐに次のタバコに火をつける。
長く吸い込んで、ため息を吐くように煙を桜の木に吹きかけた。
「ああ、知ってるよ」
それ以上聞くなと視線が釘を刺してきて、私は口を開けなかった。
そのまま立ち去っていく男の背中を眺め、この日はこれ以上桜の木に近付けなかった。
だから次の日。
学校が終わってすぐ公園に向かった。
昨日よりも少し早くついて、誰もいない桜の木を独り占め。
「まだ、咲かないね」
スマホの待ち受けを見つめてから顔をあげると、真後ろに男が立っていた。
「お前、その写真」
「きっ、きゃあぁぁぁっ!」
口から飛び出した悲鳴に、叫んだ私もびっくりした。男はうるさそうに、迷惑そうに片耳を手でおさえる。
「なんもしねぇよ、騒ぐな」
「あ、当たり前じゃないですか!」
スマホを胸に抱くように持って、桜の木に背中を押し付けた。
当たり前って、お前なぁ……と男は指先に挟めていた煙草をくわえながら呆れ顔をする。
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