桜の木の下で

13/24
前へ
/24ページ
次へ
男の左側から右側へ。景色はそう変わらず、背中の向こうで車の走る音がする。 隣では次の煙草に火をつけていた。 「お父さんと、どういう知り合いなんですか?」 「同級生」 記憶の中の父の姿と比べると、この男はかなりガラが悪そうに見えた。二人の関係が見えない……。 父はいわゆる童顔だと昔から母が言っていた。「もー、第一印象から可愛くてねぇ」と頬を染める母は恋する乙女のようで。 「仲、いいんですか?」 「……。まぁな」 私の問いに、男は少し間を開けて答えた。理由はわかってる、でもあえて突き詰めない。 早く教えてあげなくちゃ。そう思うほどに言葉が出てこなくなる。うつ向き、スマホの電源を入れて、待ち受けに視線を落とした。 「その写真、どうしたんだ」 男は指先に煙草を挟め、私から遠ざけるように片手を宙に浮かせ、再び聞いた。 待ち受けは見せたくなかった。見せて父の話をしたら、友達と同じように同情した視線を向けてくるのだろうか。そう思うと、隠してしまいたくなる。 でも、もう見られているのなら、仕方ない。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加