桜の木の下で

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父の部屋で見付けた写真である事、そのうちの数枚をスマホで撮って、保存してある事を話した。 男はゆっくりと吸った煙を吐き、口元を隠すように煙草をくわえた。 「保存してあるヤツだけでいい……。見せてくれないか?」 さっきまでのぶっきらぼうな物言いはすっかり影を潜め、口元を隠したまま私を見下ろす。 私は迷っていた。 言わなくちゃ。この写真の持ち主は、父はもう……この写真を見る事も、ここに来る事もできないんだと。 写真を見せたら、会いたいと言うかもしれない。でもそれはできない。 写真を見せる事、話さなきゃいけない事が頭の中でぐるぐる回って、スマホを持つ手が震えた。 男はなにも言わずに、じっと待っている。手が震えている事にも気付いてる。でもなにも言わない。 スマホを持ち直した私は、アルバムのフォルダから最近保存した写真を開いた。 「私が保存したのは、この五枚です。もっとたくさん、まだ全部見きれない程たくさんあります」 男は私の隣に寄って屈む。光の屈折で画面が白く光るのか、スマホを持つ私の手に指先が重なった。
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