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また次の日。
「おい、なんで来るんだよ」
放課後居残りで少し遅くなったけど、桜の木の下に来ると、相変わらず煙草の煙をゆらゆらさせる男がいた。
「だって、まだ咲かないから」
一番地面に近い枝は、手が届きそうで届かない。男の身長なら届くだろうが、どのみち低い場所はまだ蕾が小さく花が開くまで時間がかかりそうだ。
「そうだ、あの……」
木の幹に背中を預け、煙を吐いていた男にスマホを握ったまま声をかける。
男は「なんだよ」と横目で私を見た。眼鏡のレンズから外れた裸眼の瞳がこっちに向くと、それはとても不機嫌そうに見えて、私は急に怖くなり引き下がった。
男から見えない位置にずれて桜の木に寄りかかりうつ向くと、ふっと影が顔にかかる。
「黙ってちゃわからん、叫ばなくていいから……喋れよ」
男の腕が頭の上にある。私の顔を覗き込むように背中を丸めた男から、煙草のにおいがする。
顔をあげれば、思った以上の至近距離に男の整った顔があった。眉間にシワが寄ってなければ、綺麗な顔立ちなのに。
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