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男の手が口元をおおうと、ん、と何かに気付いて体を離した。
それから煙を吐いたところを見ると、また配慮してくれたらしい。確かに顔に煙を吐かれるのは嫌だ。でも、こうして開いた距離に不意にひとつの感情が浮き上がった。
「あ、の……お父さんの部屋にあった写真、昨日また、スマホに保存したんです」
写真を整理しながらお気に入り探しをしたのだ。またここでこの男に見せられたらいいかなと思って。
でも、男はゆっくりとした動作で煙草をくわえ「そうか」と言っただけだった。期待していた反応と違って、続く言葉がひっかかる。
ぼんやりと煙の行き先を目で追っている男の横顔から、地面に視線を落とし、スマホをポケットにしまった。
「まだ……咲かないみたいだから、帰ります」
スクールバッグを肩にかけ直して、歩き出す。
そのバッグの肩紐が、肩からずるっと落ちた。足を止め振り向くと、男の手が紐を掴んでいる。
「いや、ちょ……待て俺。引き止めてどうする……てか、なんでお前……泣くんだよ」
自分の行動が信じられなかったらしい男は、しばらく混乱した後、さらに困った顔をした。
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