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バッグを掴まれたまま、唇を引き結んでいるしかなかった。
口を開いたら何が飛び出るか、私にもわからない。
「泣くなって……あー、掴んでごめん」
パッと紐を離されて、私の肩からバッグが落ちる。それを拾おうとも思わなかった。
「あと俺、目付き悪ぃから……怖がらせたな」
私の代わりにバッグを拾ってくれる。でもそれを私に差し出さず、自分の肩にかけてしまった。
「なぁ、頼むから……泣くなよ」
困り果てたような顔で、嫌だったら逃げてもいいからと男が言った。何の事だかわからなかったのは、一瞬。
手を掴まれた。指を揃えて手を繋ぐように。力はちっとも入ってなくて、これなら私でも簡単に振りほどける。でも、逃げられるはずがなかった。
「バッグ持ってちゃ……逃げらんないですよ」
片手で涙を拭って、すがるように男の手を、指先を握った。少しだけホッとした顔をする男を怖いとはもう、思わなかった。
手を繋いだまま男に導かれ、並んでベンチに座る。少し低くて、膝を立てるとスカートがまくれ上がりそう。
男は煙草を口にくわえて、あいてる手で頭を抱えていた。
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