桜の木の下で

19/24
前へ
/24ページ
次へ
ごめんなさいと、小さく呟いた。 なにが、と男がこっちを見る。 でもすぐにふい、と顔を反らされた。それが私にはまた寂しく思えて、それはさっき感じた感情と同じで、胸がぎゅっと痛んだ。きっと目付きを気にして目を合わせないようにしてる。 煙草の灰が絶妙なバランスで、落ちない。 はじめて会った時にぶつかったのは私が悪かったという事、加えて変態呼ばわりした事を謝った。それから突然泣いたりしてごめんなさい、と。 「あの……怖くないですから、こっち見てください」 そう言ったら、男の広い肩がビクッと跳ねて、白い灰が落ちた。 「もしかして、色付きの眼鏡してるのは、目付きを気にしてるからですか?」 「なんで?」 「それ、度入ってないですよね」 まじまじと見つめるうちに、気付いた。 男は、これだから子どもは素直に言いたい事言いやがって……と頭を掻く。 「そうだよ、御明察。グラサンにした事もあったけど、それはいつもより凶悪度が増すからやめろって千春に言われて……あ」 途中で話をやめた男は、恐る恐るこっちに視線を向ける。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加