超・妄想【桜が登場する物語】

桜の木の下で

澄みきった青空に色を添える桃色。

けして混ざりあわない淡い色の境界線が、お互いを美しく魅せて思わずこぼれる吐息。

小さな花弁の集合を視野いっぱいに詰め込んだ、賑やかな春色。

一目で引き込まれ、隅から隅まで見入ってしまう。

はらはら舞う花吹雪、別れに散る想いと、涙に儚く寄り添う薄桃色。

遠くで泣く桜の木をどんな思いで見つめていたのか、胸にきゅっと締め付けるものが残る。

父の部屋で一枚の写真を見つけたのがきっかけで、もっと探してみたら出てくる出てくる、写真の束。

たぶん趣味で撮り貯めたものだろうけど、私はまったく知らなかった。

冷たい床に座り、一枚一枚眺めていると、古いものも出てきた。裏の日付を見れば私が産まれる前のものもあったし、一番新しいのは……去年の春。

この写真を最後にその年の夏、父は突然旅立った。

私は父がカメラを構える姿も、この写真の存在も知らず、ただ白黒の枠にはまる優しい笑顔をぼんやりと見つめていた。