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自分が写した写真が不満で口を尖らせていると、男がアドバイスをくれる。言われた通りに写してみると、今までとまったく違う写真になった。
だから、気付いた。
「お父さんの部屋にあった写真、撮ったのは……」
「……ああ、俺だ」
相変わらず煙草の煙をなびかせながら、私の隣で桜を見上げる。
父は桜が好きだった。
四季で一番春が好きで、自分の名前に"春"の字が入っている事も、誕生日が春なのもとても嬉しいと言っていた。
男は趣味で写真を撮っていたそうだ。
父に桜が好きだと聞いて、自分で撮影した写真をあげたのがはじまり。
桜の見頃は短く、天候にも左右されてしまう。でも、そんなありのままの桜の姿を撮り続け、その全てを父へ贈っていた。
ある時、父に告白されたという。
それは私が産まれる一ヶ月程前の話。
「体に爆弾抱えてるって事。それと」
男の目が、しっかりと私を見つめる。
「自分がお前達の前からいなくなったら、代わりを俺に任せるって」
この桜の木の下で交わした約束。
父の代わりになる約束。
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