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私よりも頭二つ分くらい高い所にある男の顔はかなり不機嫌そうで、唇にくわえた煙草からゆらりと細い煙がのびていた。
大きな両手が肩に乗って、引き離すでもなく逆に引き寄せるでもなく、固まっている。
不機嫌そうな顔をしていなければ、かなり整った顔立ちなんだけど……なんてそこまで考えてからやっと、バックステップで飛び退いた。
「や……っ、変態!?」
「おまっ、そっちからぶつかってきといて……っ!」
くわえた煙草を噛み砕かん勢いで、歯を食い縛る長身の男は、頭をガシガシと掻いてから小さな舌打ちをした。
「歩きスマホはあぶねぇぞ」
ぶっきらぼうにそう言って、横を通りすぎて行く。
その、ちょっとだけ猫背の背中に桃色の花弁が一枚くっついていた。それがなんだか印象的で、父の部屋で見付けた写真のように、色鮮やかに目に焼き付いた。
「歩きスマホ……って、別に使ってないし」
待ち受け見てただけだし、なんて言い訳を呟いてみる。すでに男の姿はなく、私は踵を返して学校までの道を急いだ。
スマホはポケットにしまって。
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