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一歩一歩近付いて行くと、桜の木の影でゆらりと何かが揺れた。
父が立っていた場所に……誰かいる?
一応周辺を見渡す。ここが本当に公園の中なのかと疑いたくなる程、人の気配は無く、遊具で遊んでいる子ども達の声も聞こえない。
変な人だったらどうしよう。でも、どうしても桜の木まで行かなくちゃ。
怪しそうな人なら今日は諦めて走って帰ろう。そう決めて、足音を忍ばせ桜の木に近付いた。
近付くにつれて見えてきた桜の枝は、まだ固い蕾ばかりで、花が開いているのはよく日の当たる上ばかり。
その開いている花を見上げたまま歩いていたら、足元でパキッと音がした。どうやら枝を踏んだらしい。
「……千春?」
しかも桜の木の影から人が出てきた。なんでこう、今日はこんなドジばっかり……とあたふたする間もなく目の前に現れたのは、今朝ぶつかった男だった。
え、今朝の変態……まって……今なんて?
「おま、なんで」
「へ、変態……っ」
「違うから!」
唇にくわえた煙草から、はらはらと白い灰が落ちた。
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