モザイクの経験

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顔全体をミイラのようにぐるぐる巻きにされた兜に女は言葉を失い、 病室内はシンと静まり返る。 「どうも……」最初に声を発したのは兜だった。 高齢者たちは、美女が滑り込んだカーテンの向こう側に耳を澄ませていたのだが、 耳が遠い自分たちが若者の会話など聞くことができないと思い至り、話を始めた。 見舞いに顔を見せた女は渋谷穂寿美(しぶや ほずみ)で、 兜が事故にあったのは人妻の穂寿美と寝た帰りのことだ。 兜にとっては、童貞を喪失した記念すべき日だった。 「大丈夫?」穂寿美は言ってから、「大丈夫なはずがないわよね」と微笑んで、 ベッドわきの小さな椅子に腰かけた。 「ありがとうございます」 兜は見舞いに来てもらった礼を言ったつもりだが、穂寿美はそうは受け取らなかった。 「礼なんていいのよ。私も気持ちが良かったし」 穂寿美は兜に顔を寄せ、視線をパジャマの股間に向ける。 「そこは、大丈夫なの?」 「え、ええ……」 アダルトビデオでありがちな展開を想像すると、そこは兜の意思に反して膨らむ。 「本当だ。良かった」 穂寿美は微笑んだだけで、兜が期待したようなことは何もしなかった。
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