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「私はね、難しい名前だったのを覚えているのよ。漢字一文字だった。
絶対、兜君よ。メガネを借りたのだって、顔を隠したいだけじゃないでしょ。
病院なら、マスクを買えば済んだ話だもの。
兜君と話しがしたかったのでしょ。
そうじゃないなら、兜君の物を持っていたかったとか」
「本当に、10年前にチョコを作ったことさえ覚えていないのよ。
兜君の名前だって、新聞を見て思い出したんだから」
千穂理は振り返って言った。
「わかった。千穂理、あの時、振られたのね。
プライドが高いから、無かったことにしたんじゃない。
いつもそうなのよ。傷つくのを恐れて自分の気持に嘘をついている」
「まさか。テレビを見ているんだから、静かにして頂戴」
冷たく応えたのは、姉の言ったことに心当たりがあり苛立ったからだ。
「全く素直じゃないのね。じゃあ、帰るわ」
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