決意

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「何処へ行っていたんだ」 21時。 屋敷へ戻ると、2階への階段の前で父が立っていた。 「こんな時間まで、お前は何をしていたと聞いているんだ」 少し語気を強めて言う。 「宮本楼へ行っていました」 「女遊びか。お前はもうすぐ跡を継ぐんだ。わかっているんだろうな?」 (女遊び。違う。私は・・・) 「あそこには妻にしたい女性がいるのです。親に捨てられ、行く行くは無縁仏としてゴミのように捨てられる彼女を救いたいのです」 初めて父に自分の意思をはっきりと伝えた。 父は目を見開き、眉間のシワが深くなる。驚いた様子にも見えたが、構わず勉は言葉を続けた。 「会社は継ぎます。しかし、彼女を妻にする為の金をすぐに調達したいと思っています。金を借り、会社を継いで私の取り分となる金を返済に充てるつもりです」 勉の言葉を静かに、まっすぐ勉を見つめながら聞いていた父が、ようやく口を開く。 「そうか・・・」 「もしこれを聞いて跡を継がせたく無いのであっても、親子の縁を切られたとしても、別の方法で返済します」 腹は括っていたことだった。 「いや。跡は継がせる。だが、金は借りるな。今から1年。いや2年は掛かるかもしれない。だが、自分の手で金を稼ぎ、その娘をあの遊郭から解放してやりなさい」 「しかし・・・」 反論しようとしたが、父の雰囲気がそうさせてくれない。 「どれ程の時間が掛かっても、必ず稼ぐのだ。どれだけの時を経ても、その娘を愛し続ける事が出来たのなら妻にすれば良い。其ほど強い愛が無ければ、彼女に対して失礼だ。それに愛する女に借金を背負わせるな」 父は母との結婚を酷く反対されていた。 一代で大成功を収め、今ほどの資産家となったが、まだ駆け出しの頃は不安定でしかなかった。 そんな母との結婚を先送りにし、結果を出して、改めてプロポーズをして家族の了解を得たのだった。 そんな過去のある父の言葉には、説得力しかなかった。 「わかりました」 どれだけの時間が掛かっても、彼女は待っていてくれるのだろうか そんな不安も過ったが、父は勉の肩に手を回す。 「私がサポートする。一目惚れだろうと、愛した女は手放すな。それだけの想いがあるなら、金などすぐに集まる。お前なら大丈夫だ」 その言葉は何よりも力になった。
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