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「うーっ。今日も寒いなぁ」
海に近いこの町の冬は、とても寒かった。
1日の仕事を終え、暗い夜道を、松下 勉は1人歩いていた。
町の中心部の方には、大きく豪華な木造の建物があり、夜が近付くにつれ、次第に賑やかな雰囲気になってきていた。
「あんな所に行っては、金が幾らあっても足んねーや」
黒いコートの襟を立て、口元まで埋める。
寒さの余り、少し小走りで曲がり角に差し掛かった時だった。
ドンッ
「きゃっ」
「わっ!」
ぶつかった瞬間、女性の小さな悲鳴が聞こえた。
思わず尻餅をついてしまったが、女性は転んでは居ない様だった。
「ちょっと!気を付けなさい!」
ぶつかった女性の少し後ろを歩いていた女が怒鳴る。
「す、すみません」
慌てて立ち上がり、頭を下げる。
ふと頭を上げたそこに立っていたのは、肌の白く、とても綺麗な女性だった。
「大丈夫ですよ。こちらこそ申し訳ありませんでした」
少し高めの、優しい雰囲気の声だった。
付き人らしき怒鳴っていた女性は、まだ怖い顔をしてこちらを睨んでいる。
「では、失礼します」
そう言って、女性は町の中心部の方へ歩き始めた。
「あ、あの!もしかして、あそこで働いてる方ですか?」
「えぇ。そうですよ。小春と申します」
振り返った彼女はにっこりとそう言い、「では」と、背を向けて去って行った。
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