出逢い

2/3
18人が本棚に入れています
本棚に追加
/29ページ
「うーっ。今日も寒いなぁ」 海に近いこの町の冬は、とても寒かった。 1日の仕事を終え、暗い夜道を、松下 勉は1人歩いていた。 町の中心部の方には、大きく豪華な木造の建物があり、夜が近付くにつれ、次第に賑やかな雰囲気になってきていた。 「あんな所に行っては、金が幾らあっても足んねーや」 黒いコートの襟を立て、口元まで埋める。 寒さの余り、少し小走りで曲がり角に差し掛かった時だった。 ドンッ 「きゃっ」 「わっ!」 ぶつかった瞬間、女性の小さな悲鳴が聞こえた。 思わず尻餅をついてしまったが、女性は転んでは居ない様だった。 「ちょっと!気を付けなさい!」 ぶつかった女性の少し後ろを歩いていた女が怒鳴る。 「す、すみません」 慌てて立ち上がり、頭を下げる。 ふと頭を上げたそこに立っていたのは、肌の白く、とても綺麗な女性だった。 「大丈夫ですよ。こちらこそ申し訳ありませんでした」 少し高めの、優しい雰囲気の声だった。 付き人らしき怒鳴っていた女性は、まだ怖い顔をしてこちらを睨んでいる。 「では、失礼します」 そう言って、女性は町の中心部の方へ歩き始めた。 「あ、あの!もしかして、あそこで働いてる方ですか?」 「えぇ。そうですよ。小春と申します」 振り返った彼女はにっこりとそう言い、「では」と、背を向けて去って行った。
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!