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ヒルコが大吉の家にきて一月ほどたったある日、役所から、大吉たちの家のある場所に、大名様が別荘をたてたいから、出ていけという手紙がとどきました。
「どうすべえ…」
ヒルコは、とうとういたたまれなくなり、自分がびんぼうがみで、不幸をはこぶそんざいだとうちあけました。
「ごめんなさい…さんざん不幸にしておいて、いまさらでていくなんて、おそいかもしれないけれど…」
「そんなこというなあ。これはヒルコちゃんのせいじゃねえだ。びんぼうなのはいまにはじまったことじゃねえ。さあ、ひるめしにすべえ。あしたのことはあしたかんがえりゃあいい」
ヒルコはその夜、気づかれないように大吉たちの家を出ました。
ヒルコがひとけのないばしょにつき、天界にかえる道をつくっていると、うしろからだれかがよびとめる声がしました。
ヒルコがふりかえると、そこには大吉がいました。
「おら、ヒルコがいないとさみしいだ。だから、かえってきてくんろ」
大吉はそういってぽろぽろなみだをこぼしてなきだしました。
ヒルコは、父の言葉を思い出していました。
――どんなことがあっても、泣かせるようなことはしないようにしなさい。そうすれば、嫌われることはないから、心配しないで大丈夫だ――
(どうしよう、私、大吉を泣かせちゃった…嫌われたかな)
「私といると、大吉や大吉のお父さん、お母さんが、不幸になる。だから、もう、一緒にいられないの」
そういってヒルコもぽろぽろなみだをこぼしました。
「不幸になんかならね。ヒルコがいねエほうが、不幸だ。ヒルコだって、ほんとうは、おらたちといてえんだろ。かみさまのくせに、がまんすンな。してエようにできるから、人間はかみさまにあこがれんだ。そらさとんだり、食いモンぱっとだしたり、したいことが何でもできるから、かみさまなんだ。ほこりさもて。ヒルコのおかげでおらたちは、豊かなことのありがたさを知っただ。ヒルコのおかげで、おらたちは心が豊かになっただ。おまんは、ふくのかみよりすごい力をもってんじゃねえかっておもうくらいだ」
「でも…」
「いいからかえってこ。な?」
「うん、ありがとう」
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