さくら、ふくふく。

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ヒルコは、お父さんに言われたとおり、桜の木のしたに立ちました。 しゅんとうなだれながら人間のあしおとがちかづいてはとおざかっていくのをきいていると、誰かが立ち止まるけはいがしました。 「どうしたア、だいじょうぶかあ。女の子が一人でこんなとこさいたらあぶないぞお。家はどこだア」 ヒルコはいっしゅんキョトンとしましたが、すぐ、首をふりました。 「家出でもしたかア。日もくれてきたし、おらの家さこ。おら、ダイキチ。おまんは?」 「…ヒルコ」 きえいりそうなこえでヒルコはこたえました。 「ヒルコか。字は何てかくんだア?」 「…カタカナでヒルコ。あの蛭みたいに、さげすまれる存在だから、ヒルコなのよ、きっと。」 「いんや、昼のように明るい子といういみじゃねえべか。それに、あの蛭のヒルにしても、さげすまれる存在ってわけじゃねえと思うな。蛭は、ちりょうにつかわれることもあんだぞ。悪い血を、吸ってくれんだ。世を正す存在になってほしいって意味かもしれねえぞ」 「…そうかな」 ヒルコが、顔をあげると、まえばのないダイキチの笑顔がとびこんできました。 「ダイキチは、何て書くの?」 「おみくじの大吉といっしょだあ。おっかあが、おらがはらのなかさいるとき、おみくじひいたら大吉で、安産だってでたから、大吉。じまんの名前だア」 そう言って大吉はまたまんめんの笑みをうかべました。 「こんなところではなんだし、家にきなあ」 「…うん」
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