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ひんやりとした風が全身を撫でる。
上を見上げれば人間界とそう変わらない青空が広がっており、ふわりと雲が揺蕩っていた。神界名物の巨大な虹は神界のどこにいても見えるという不思議仕様で、例にもれずここからも良く見える。
視線を真っ直ぐ見据えるとその先には広大な海が光の反射でキラキラ輝いている。神界にも海はあるんだなこれが。海の神様とかもいるからね。
耳を澄ませば聞こえてくる波の音。イルカなどの海の生き物の鳴き声もそれに混じって鼓膜を揺らすのがなんとも心地いい。ずっと聞いていたいくらいだ。
こんな状況でなければ。
「何故こんなことに……!?」
滝のように冷や汗を流す俺。
幅が極端に狭い道とも呼べぬ道を岩肌を背にくっつけてカニさん歩きで進み目的地を目指す現在。
「なんか、RPGやってる気分……」
同じく岩肌を背にカニさん歩きしてる高築がどこかワクワクしたような顔で言う。確かにゲームやってるみたいだよね。こう、マップにはない隠しルートを探索してる感じ。
「おい、遊びじゃないんだぞ。もっと気を引き締めろ」
ほんの少しゲーム感覚な高築を一喝するのは最後尾の南雲。言ってることは正しい。何せ一歩足を踏み外したら海へ真っ逆さまなのだから。
「すまん。てか、優しそうに見えて鬼畜だな、あの女神様。一介の人間をこんな場所に遣わすかね?普通」
上からパラパラっと降ってきた砂を払いながら愚痴る高築に内心激しく同意した。本当にそうだよ!なんだってこんな……こんな……っ
「なんだってこんな断崖絶壁に行かせんだよぉぉぉぉぉ!!」
俺の叫びは海の彼方に溶けて消えた。
そう。俺達は今断崖絶壁と呼ぶに相応しい崖、その脇道にいた。
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