崩れゆく日常

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 足下を見ると、先ほどの警察官が俺の足を掴んでいる。独特の紺色の制服の上からでも分かるほど、異常に隆起した腕の筋肉。今にも制服がはち切れそうだ。  目も血走っており、俺を掴んでいるのにどこか明後日の方向を見つめている。 「見つけた……ミツケタ……ミツケタァ!!」 「異端者はハイジョしろ……」 「ハイジョ……ハイジョ……」  警察官が叫んだかと思えば、周りを取り囲む人達が次々に俺を排除しろと言いながらゆっくりと包囲を狭めてくる。何が起こっているのかも分からず、ただ、頭には逃げなければ危険だという言葉だけが何度も木霊する。  俺を取り囲む人々の中から、一際非力そうな老婆を見据え、狙いを定める。逃げるなら、あそこから一点突破だ。しかし、警察官に足を掴まれていて、思うように動けない。  いや、考えるのは後だ。何故だか、妙に力が湧いてくる。先ほど、容易く警察官を転ばせたように、自分の体が自分の物じゃないみたいな不思議な感覚。  掴まれている右足に意識を集中し、力を込める。そして、一気に力を開放した。  ブチィィィ!  いやに耳障りな音が聞こえた。しかし、軽くなった足の感覚に心地よい解放感を覚え、その勢いのまま老婆の右の隙間目掛けて突進する。  若干狭い。そう思った俺は、軽く老婆を手で押しただけのつもりだった。  ボキィィィッ!  今度は鈍い音に不快感が俺を支配する。老婆の腕が、体が、くの字に歪んだ。先ほどの音は、盛大に老婆の全身の骨が折れた音だろう。  振り返ると、地面に伏したままの警察官の片腕は無惨にも体から千切れて転がっていた。
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