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佳絵の将来の夢はパティシエらしい。しかし、先ほどの俺の言葉からも分かるように、いわゆる料理音痴だ。おそらく、砂糖と塩を入れ間違えたと思われる、典型的な失敗チョコだったが、これでもかなり良くなった方だ。
一昨年のなんて……うっ、思い出しただけで吐き気が……。
まぁ、そんな佳絵の手作りチョコをこうやって1年に1回、毒味させられる事が俺の仕事の1つだったりする。幼馴染みの女子中学生から毎年バレンタインデーチョコを貰えるわけだが、決して役得でも何でもない。
「うー……来年こそぉ……」
小さくなりながらも目に涙を湛えて来年の抱負を語る佳絵の頭にポンッと手を置いた。
「ま、昔に比べたら大分良くなったんじゃないか?」
「ほんと!?」
「あぁ、今年のは食い物としての道は外れてない」
「え? それ褒めてるの?」
「……」
「うがぁー」
「ちょ! やめろ! 噛み付くな!」
野生の獣よろしく、俺に牙を向けてくる佳絵を振り払い、何とか高校に無事辿り着くことが出来た。それにしても、どれだけ打ちのめされても悲観せず、夢に向かって真っ直ぐ進める佳絵は本当に尊敬する。
俺なんて…………
そう思いながら昇降口に入ると、誰かを待っているような雰囲気の女生徒と目が合った。まぁ、バレンタインデーだし、昇降口で女子が誰かを待ち伏せしていても不自然ではないな。
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