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靴がない。
一次の音源審査を経て実技の二次予選を通過したのは80人中24人、そして二次からファイナルに残ったのは最終的には9人。
まさか、そこまで上り詰めてきた人間がこんなつまらないいたずらをするとは、思ってもみなかった。
あの靴は、ぺダリングの微妙なタッチまで拾えるよう、底皮を入念に張ってあるんだ。
ステージの板張りの床を歩いても音がしないように、何度も靴職人に作り替えてもらった、オレにとってはかけがえのないものだ。
ここまで勝ち抜いてきた靴だ。その辺の世話役の物を借りる、というわけにはいかない。
ファイナルの課題曲は、この大会のために書かれた新曲。しかもオーケストラを背負って弾く。
ハーフペダルを狙ったら踏み込み過ぎた、などというミスは命取りだ。
オレは必死になって靴を探した。楽屋から練習室、トイレまで、それこそ夢中になって。
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