3.真剣勝負

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 弾かれたように顔を上げて見つめると、和成はにっこりと微笑んだ。少年のように無邪気な笑顔が月海の神経を逆なでする。 「……同情などいりません。相手の力量を見極めることもできない未熟な私など……」  目を伏せて不愉快そうに呟く月海を、和成は眉を寄せてうんざりしたように見つめると、軽くため息をついた。 「弱い奴に同情したって意味がない。同情して弱い奴に護衛を任せたんじゃ、私の身を守ってはもらえないだろう?」  月海は益々項垂れると力なく謝罪した。 「申し訳ありません……」 「そんなに気落ちする必要ないよ。今ここにいる中で私に勝てるのって、塔矢殿と里志殿だけだもの。君が二人に勝てるのなら落ち込んでもいいけどね」  月海が驚いて顔を上げると和成はおもしろそうに笑っていた。  最初から自分が勝てる相手ではなかったのだ。それがわかった途端、張り詰めていた気が一気に弛んだ。同時にからかわれたような気がしてちょっと不愉快になった。 「……結構強い程度の水準ではないじゃないですか。なのに、私ごときに真剣勝負だなんてお人が悪うございます」  ふてくされて口をとがらせる月海に、和成は笑って右手を差し出した。 「君があんまり自信満々だったから、私もヤバイかなと思って。これからは護衛よろしく」 「……よろしくお願いいたします」  月海は気まずそうに上目遣いで和成を見つめると、差し出された右手を握り返した。 「じゃ」  そう言って和成は、通りすがりに月海の肩を軽く叩くと道場の出口へ向かった。  月海は慌てて振り返ると、身体を直角に折り曲げて和成に深く頭を下げた。 「君主様! ご無礼の数々、誠に申し訳ありませんでした!」  和成は振り向いて微笑むと、軽く手を挙げてそのまま道場を出て行った。その後を追うように、塔矢も道場を後にする。  月海はしばらくの間、道場の出入り口を見つめて、ぼんやりと立ち尽くした。  和成に肩を叩かれた時、肩にのしかかっていた何かが全て取り除かれたような気がした。そして、これまで感じたことのない不思議な心の高揚感を覚えた。  胸を押さえて、その心地よさに目を細めると自然に口元が緩んだ。
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