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4.夜の不思議
翌日、長い間和成の使っていた部屋に月海が引っ越してきた。
荷物の整理が終わり、月海は自室前の中庭へと降りる石段に座ると、真新しい認証札を眺めた。
これまで入ることのできなかった城内のほとんどの場所に入ることのできる認証札だ。
どこか探検に行ってみようかと考えていると、後ろから声がした。
「もう片付いた?」
振り返ると和成が立っていた。月海は慌てて立ち上がると頭を下げた。
「つい先ほど片付きました。あまり荷物もありませんし」
「そうなんだ。大変そうだったら手伝おうかと思ったんだけど」
軽く言う和成に恐縮して、月海は激しく手を振りながら一歩退いた。
「君主様にお手伝いいただくなど、とんでもないことでございます!」
あまりに恐縮した様子に、和成は思わず苦笑する。
「頼むから、その”君主様”ってのやめてくれないかな」
「え? では何とお呼びすれば……」
「名前でいいよ」
「和成様……ですか?」
月海が恐る恐る名前を呼ぶと、和成はにっこり微笑んだ。
「うん。その方がいい。どうも”君主様”とか”殿”とか呼ばれるの、未だに慣れなくて」
照れくさそうに頭をかく和成の笑顔に、月海の目は釘付けになる。
「部屋の中はきれいだった?」
ぼんやり見とれていると、不意に和成がこちらを向いた。視線がぶつかり、ドキリとして思わずうろたえる。
「あ、はい。大丈夫です」
「そう、よかった。昨日慌てて片付けたからさ。一応、布団を変えて掃除はしてもらったんだけど、おやじ臭かったらごめん」
片手で拝むような格好をする和成を見て、月海は不思議そうに首を傾げた。
「どなたか、この部屋をお使いだったんですか?」
「昨日まで私がいたんだよ」
「え?! だって、見たことはありませんけど、この向こうに広くて立派なお部屋があるとお伺いしておりますが……!」
そう言いながら月海は渡り廊下の向こうを指差した。和成は気まずそうに笑う。
「うん。確かにそうなんだけど、広くて立派すぎて、どうも落ち着かなくてね……。私は侍従長から庶民癖の抜けない困った君主だと言われてるんだよ」
「はぁ……」
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