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少し頭を冷やそうと、中庭へと降りる石段に腰を下ろす。
真夜中の静寂の中、中庭の木々は月光に青白く照らされていた。桜はチラホラと花を咲かせ始めている。自室にいながらにして花見ができるとは、なんて贅沢なんだろうと月海は思った。
見上げると、雲ひとつない夜空に、ほとんど満月に近い明るい月が出ていた。
ふと、視界の隅に人影が見えた。月海は立ち上がり、そちらへ視線を向ける。
もっと近くで見ようと、渡り廊下の手前まで静かに廊下を移動した。近付くと人影の正体は和成であることが判明した。
和成は君主居室を取り囲む生け垣の前で立ち止まり、中庭側を向いて月を見上げた。しばらくそのまま、じっと月を見上げている。
真夜中に何をやっているのか気になって、月海は目を逸らせずにいた。
すると和成は月に向かって何かを語りかけた後、そのまま目を閉じ幸せそうに微笑んだ。少しして和成はその場を離れると庭の奥に姿を消した。
まるで月が見せた幻のようだ。
幸せそうに微笑む和成の笑顔と、不思議な光景が目に焼き付いて離れない。和成が何を言っていたのかも気になった。
月海はしばらくの間廊下の柱に縋り、その場を動けなかった。
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