5.昼の不思議

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5.昼の不思議

 月海が城に常駐するようになって一週間が過ぎた。  護衛官とはいえ、和成が城内で通常業務を執り行っている状態では何の用もない。月海は和成とほとんど顔を合わせることもなく、今まで通り財務局官吏として働いていた。  あの不思議な光景を目にしてから一週間、月海は気になって毎晩廊下に出て外を眺めた。その間和成は、毎晩現れては月に向かって何かを語りかけていた。  他にも和成には不思議な行動が見られる。誰かに呼ばれたわけでもないのに、突然振り返るのだ。  たまたま後ろにいて目が合うと、驚いたような、がっかりしたような、複雑な表情をする。実際に驚くのは後ろにいた人の方なのだが。  昼休み、中庭にある池の畔の椅子に座って、月海は和成の不思議について考えていた。  すでに自覚はしていた。自分は和成に恋しているのだ。  気がつけば和成のことを考えている。姿を見れば目で追っている。言葉を交わせば一日中うきうきするし、姿さえ見ない日は心に穴が開いたような気分になる。  自覚した途端、楽しいばかりではなくなった。想っても仕方のない相手なのだ。  和成は君主で、父娘ほども年が離れていて、おまけに聞くところによると、亡くなった妻である先代君主を今でも深く愛しているという。  池を見つめて大きくため息をついたところに、声をかけられた。 「どうした。里心が付いたのか?」  驚いて声のした方を向くと塔矢が立っていた。 「そんなんじゃありません」  月海は不愉快そうに塔矢から顔を背ける。塔矢は笑いながら月海の隣に腰を下ろした。  塔矢は時々月海を子供扱いする。それがいつもシャクに障った。  先輩たちが言うには、昔、優秀なくせに塔矢に手を焼かせた部下がいたらしい。その部下に月海がよく似ているので、塔矢が世話を焼きたがるのだろうと言う。  優秀なところが似ているのならいいが、手を焼かせるところが似ていてもあまり嬉しくはない。
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