5.昼の不思議

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「城暮らしはどうだ? もう慣れたか?」 「……別に、どうと言うことは……」  気のない返事をする月海の顔を塔矢は覗き込んだ。 「どうした? 何か気になることでもあるのか?」  月海は塔矢を見つめて少しの間考えた。  和成は昔、塔矢の部下だったらしい。夜の行動はともかく、昼間の行動については塔矢ならその理由を知っているかもしれない。 「和成様は何をご覧になってるんでしょうか?」  唐突な質問に塔矢は怪訝な表情をする。 「時々、何もないのに突然振り向かれるんです」  それを聞いて塔矢は納得したように口元を緩めた。塔矢もあの奇行を見たことがあるようだ。 「あれは多分、先代を捜しておいでなのだ。時々後ろにいるような気がするとおっしゃっていた」  月海は思わず眉をひそめた。 「亡くなった奥様がですか? 怖いじゃないですか」  塔矢は声を上げて少し笑った。 「確かに我々はそうだが、俺は以前、殿から伺っている。幽霊でもいいからもう一度会いたいと」  胸の奥がチクリと痛んで、月海は塔矢から目を逸らした。  塔矢は懐かしむように目を細めて話を続けた。 「おまえも知ってるだろうが、殿は若い頃から頭は切れるし、腕は立つし、見てくれもあの通りかわいいから城内の女性陣にモテモテだったんだ。けど、ニブイ方でなぁ。少年のようにかわいい容姿をおもしろがられて、からかわれているとしかお思いにならない」  腕を組んで大袈裟にため息をつく塔矢を見て、月海は思わずクスリと笑う。 「自分のお気持ちさえ、俺が指摘するまでお気づきにならなかったほどニブイ方だ。何でもできて、大概のことは器用にこなすが、心は誰よりも不器用で、二度と会えない女を十年以上経っても変わらず想い続けている」  塔矢の話を聞きながら、月海の胸はズキズキと痛みを増してくる。それでも和成の事を知りたい欲求の方が優り、月海は尋ねた。 「大恋愛の末に結ばれたと聞いてますが……」 「それはちょっと違うな。殿が一方的に想い続けていただけだ。やっと想いが通じて、結婚の約束をした翌日、先代は戦でお亡くなりになった。お二人が実質、夫婦や恋人同士だった時間は一日にも満たない」 「なんか……切ないですね……」
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