6.未来永劫

1/7
前へ
/24ページ
次へ

6.未来永劫

 その夜、月海はいつもより早く自室の外に出た。  昼間の和成の不思議は謎が解けた。後は夜の和成の不思議だけである。どうしても何を言っているのか知りたくなった。  月海は目立たない暗い色の着物を着て、中庭に降りた。  いつも和成が現れる場所は大体一緒だ。月海はその場所から、遠すぎず近すぎず正面でない場所に生えた木の上に上った。  そこからは君主居室の庭がよく見える。庭に植えられた大きな桜の木が、すでに満開となっていた。  月海は太い枝に座り、幹に腕を回して掴まった。  少しして庭の奥に和成の姿が見えた。和成は途中桜の木の前で立ち止まり、少し眺めた後、まっすぐこちらへ向かってきた。  月海は気配を殺して身を固くする。和成が一歩一歩と近付いてくるごとに鼓動が早くなり、思わず着物の胸元を掴んだ。  和成がいつもの場所に到着した。斜め横から見る和成の顔がはっきりと見える。ここからなら口の動きもはっきりとわかりそうだ。  和成が月を見上げた。月海は見逃さないように固唾を飲んで見つめる。  月を見つめて目を細めると和成は口を開いた。和成の唇が言葉を紡ぎ出す。 ――――アイシテイマス  一言発した後、和成は目を閉じて幸せそうに微笑んだ。その笑顔が月海の視界の中で、どんどん滲んでいく。見開かれた月海の目から涙があふれた。  あの言葉が誰に向けて発せられた言葉かすぐにわかった。和成は夜ごと亡き妻に向かい愛を語っていたのだ。  塔矢との勝負に挑むまでもなく、最初から結果はわかってしまった。  敵うわけがない。思い出の中で日ごとに輝きを増していく人に、彼の意識の外にいる今を生きる自分が。  次から次へと涙があふれ、止まらなくなった。  月海は和成が立ち去った後も、しばらく木の上で泣き続けた。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加