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昼食時の城内食堂が今日は奇妙な静けさに包まれていた。いつもなら城内官吏が一斉にやって来るので、かなりざわついているのだ。
ヒソヒソ声は聞こえるものの、そこにいる人数に対してあり得ない静けさだった。
「ここに来るの久しぶりだけど、今日はやけに静かだな」
うどんをすすりながら和成(かずなり)は問いかけた。その音が静かな室内に響き渡る。
「よろしいのですか? このような所でお食事などなさって」
和成の向かいに座った慎平(しんぺい)が、冷めた目で見つめながら問いかけた。和成は思いきり顔をしかめると非難するように慎平を睨んだ。
「”なさって”とか言うなよ」
「塔矢(とうや)殿でさえ敬語なのに、私がくだけるわけにはまいりません」
「塔矢殿だって俺と二人きりの時は今まで通りなんだよ。今は休憩時間だし、おまえも今まで通りでいいんだよ」
笑う和成を見つめて慎平は軽くため息をついた。
「無理ですよ。これだけ注目されてたら」
慎平に言われて、和成は初めて周りの様子を見回した。和成と慎平の座る机を遠巻きにして、食堂に集うものたちが和成に注目している。食堂の静けさの原因はこれだったのだ。
和成は箸を置くと思わず笑顔を引きつらせた。
「なんで? そんな珍しいものでも見るみたいに……」
慎平が呆れたように大きくため息をつく。
「君主がこのような所で下々の者にまざって、うどんなんか召し上がっていれば充分に珍しいです。ご自身のお立場をご自覚下さい」
和成は片手で頬杖をつくと目を細くして慎平を見つめた。
「それ、俺が毎日紗也様に言ってた言葉だ」
慎平は少し目を見開いた。
「紗也様……」
そして、懐かしそうに遠い目をして微笑んだ。
「懐かしい名前ですね」
和成は少し不思議そうな表情を浮かべた後、すぐに納得して小刻みに頷いた。
「あ、そうか。もう十二年経つんだったな。俺は毎日考えてるからそんなに経ってるとは気付かなかった。確かに懐かしいかもな」
「毎日ですか?」
当然のようにサラリと言う和成に慎平は驚いて問い返した。
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