1.庶民な君主

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「悪いかよ」  ふてくされたようにそっぽを向く和成を見て慎平はクスリと笑う。 「いえ。以前、佐矢子殿が言ってたじゃないですか。和成様は機械でできた人形のようだと。あの頃は私も和成様は他人に対して淡泊な方だと思っていましたから、こんなにも深くひとりの人を愛する方だとは存じませんでした」  和成は少し照れくさそうに慎平を見つめて問いかけた。 「いつから気付いてた? 俺が紗也様を想っている事」  慎平は少しためらうように答えた。 「……あの時まで、気付きませんでした。だから、あの後和成様の落胆ぶりを見て、私の身勝手でお引き止めしてしまった事を少し後悔しました」 「俺も謹慎中はずっと後悔してたよ」  和成は紗也を見送った後、あらゆる事を繰り返し悔やんでいた。  どうして紗也から目を離したのか。どうして自分の身の安全にもっと気を配っていなかったのか。どうして紗也の出陣をもっと強く反対しなかったのか。敵の動きがおかしい事に気がついていたのに、どうして刺客の存在に気付かなかったのか。どうして自分はまだ生き恥をさらしているのか。  だが、いくら悔やんだところで時間も紗也も戻っては来ない。  紗也から国の未来を託されていた事を塔矢に告げられ、やっと前向きになれた。  本当はあの時、慎平が止めなければ戦も国も全て放り出して紗也の元へ行きたかった。そうなっていれば、圧倒的な戦力差で、あの戦には負けていたかもしれない。  そして、紗也の願う平和は訪れることなく、君主不在の杉森国は衰退し消滅していただろう。 「今の俺の命は、紗也様の夢見た未来を築くためにある。ちゃんと礼を言ってなかったな。あの時、引き止めてくれた事、感謝してる」 「そう言っていただけて、私も肩の荷が下りました」
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