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月海を見送った後、塔矢がクスクスと笑い始めた。そして、和成を横目で見つめて言う。
「鏡を見ているようだろう」
和成も目を細くして横目で塔矢を見る。
「……確かに、おもしろい奴ですね」
「確かめなくても、あいつの腕はかなりなものだぞ」
「彼女の腕を疑ってはいません。塔矢殿の人選ですし」
壁に掛けられていた刀を取って腰に差す和成を見ながら、塔矢はおもしろそうに笑った。
「何を考えている?」
和成は振り返ると、逆に問い返した。
「今の塔矢隊で、彼女に勝てる人はどのくらいいますか?」
塔矢は少し考えて答える。
「古参の隊員が四、五人ってとこかな」
それを聞いて和成は納得して笑いながら何度も頷いた。
「そうじゃないかと思いました。”男にまけるもんか”って全身から滲みだしてますしね。まぁ、その実力だと、私にも勝算はあるかな」
「負けるつもりないだろう」
塔矢はニヤリと笑いながら和成の肩を小突いた。
「ええ。だから真剣勝負にしたんですよ。慣れてないと緊張しますからね。その分私は有利になります」
和成は昔から稽古の時もほとんど真剣を使っていた。人を斬るのが嫌いな和成は戦場でためらわないように、稽古と実戦の感覚の差を減らすためそうしていたのだ。
「ずっと勝ち続けていると、負けるわけにはいかない気分になってきますからね。それで肩に力が入ってるのかなと思って。ちょっと力を抜いた方が、周りが見えてきて彼女のためにもいいんじゃないかと」
「おまえも昔は周りが見えてなかったな」
「そうですね。だから、彼女の肩の力を抜いてあげたいんです。立ち会いお願いします」
「わかった」
二人は執務室を出て道場へ向かう。時間は午後二時になろうとしていた。塔矢隊の稽古の時間である。
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