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「隣、いい?」
不意に、またもや背後から呼び掛けられた。
先刻とは異なり、落ち着いた青年の声。
バスの中に居るのでも公園のベンチに座っているのでもないのに、隣も何もないような気がする……。
未だに視線は下方の樹々に落としたまま、漠然と少女は考える。
なのに、自分は口を開いていた。
「……どうぞ」
思わず応えてしまったのは、おそらく、その青年の声があまりにも優しく自分の耳に入ってきたから。
「どうも」
律儀に礼を述べた後、ゆっくりと自分の隣に進み出て同じように手すりに両肘を預ける長身の男性を、少女は気配だけで感じていた。
別に、騒がしく不用意に自分に近付こうとするのでなければ、構わない。
わざわざ視線を上げて相手を吟味しようなどという気は起こらなかった。
この人は大丈夫。
気配だけで何となくわかる。
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