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「もう少し、肩の力抜いたら?」
優しげに青年の声が響いた。
「そんなに思いつめなくても、彼らは大丈夫だよ」
「……!」
人間の声が――自然以外の声が初めて、心の一番大事なところに触れた、ような気がした。
彼ら?
予想もしていなかった言葉に、少女は反射的に隣に立つ人物を見上げていた。
わずかにネクタイを緩め、脱いだグレーのジャケットを小脇に抱えた、いかにも会社帰りといういでたちの青年が、静かに微笑んでこちらを見下ろしている。
声と同様に優しい、けれど真っ直ぐな瞳。
彼ら、とこの人は言った。
そんなに思いつめなくても、彼らは大丈夫だと。
まさか……。
ともすれば震えそうになる声をむりやり落ち着かせ、少女は慎重に口を開いた。
「……『彼ら』って……?」
まさか、自分と同じ感覚を?
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