3/8
前へ
/16ページ
次へ
「もう少し、肩の力抜いたら?」  優しげに青年の声が響いた。 「そんなに思いつめなくても、は大丈夫だよ」 「……!」  人間の声が――自然以外の声が初めて、心の一番大事なところに触れた、ような気がした。  彼ら?  予想もしていなかった言葉に、少女は反射的に隣に立つ人物を見上げていた。  わずかにネクタイを緩め、脱いだグレーのジャケットを小脇に抱えた、いかにも会社帰りといういでたちの青年が、静かに微笑んでこちらを見下ろしている。  声と同様に優しい、けれど真っ直ぐな瞳。  彼ら、とこの人は言った。  そんなに思いつめなくても、彼らは大丈夫だと。  まさか……。  ともすれば震えそうになる声をむりやり落ち着かせ、少女は慎重に口を開いた。 「……『彼ら』って……?」  まさか、自分と同じ感覚を?
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加