1. 兆し

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 なぜか……父親の雰囲気がどこか、いつもと違うような感じがした。  でもそれだけだと、思っていた。  「稽古」「修行」時以外は常におおらかで飄々としてさえ見えた父親が、窓辺に佇み、遠ざかって行く我が子の後ろ姿を見送っていたことに気付くことはなく、 「……風が、強いな――」   静かだがどこか探るような顔つきで宙を仰ぎ、そんなつぶやきをもらしていたことなども、当然知る由もなかった――。
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