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「ソータ……なんだろう、あの気味の悪い音」
「音?何も聞こえないけど…」
「音っていうより、振動かな…世界が裂けてしまいそうな。怖い、波みたいな…」
ソータが他のクラスメートと顔を見合わせ、首を振った。
「何も感じないよ?きっと、頭痛のせいだよ。医務室行けるか?立てる?」
医務室にいたのはB組の保険委員、ミウだった。
「ああ、リュート。また、いつもの頭痛?」
ミウは頭がよくどこか冷たい印象のする美人だ。
「どこかのクラスで誰かが骨折したらしくて。校医の先生ならしばらく捕まらないわよ」
「ええ―」
「どうせ原因不明なんだからいてもいなくても一緒じゃない」
「ちょ、どこ行くんだよ」
「あたしも自分の試合があるから」
ミウは医務室から出て行ってしまった。
「……何だよ、あれ。思春期か?幼なじみなのに冷たくね?」
この都市でただ一つの学園で初等部から高等部まで過ごす。幼なじみといえばまあ全員幼なじみなのだが。
「いいよ……原因不明の頭痛は本当のことだし」
本音を言えば、物心ついた時から家族の次に身近だったミウの最近の原因不明のよそよそしさに少し心を痛めている。
ソータはリュートをベッドに寝かせるとそのまま自分も隣のベッドに横になった。
「おい、便乗してサボりかよ?」
「いいじゃん。いてもいなくてもおんなじどうし、仲良くやろうぜ?」
「ホントになぁ…しかも頭痛持ちって、みんな口では心配してくれるけどさ、クラス的にはウザがられてるよな」
「オレは心から心配してるけど?」
「言ってろ。そういえば試合、どうなったかな」
「どうせユウキの独壇場で優勝だろ。今ごろクラスはお祭り状態か。ウザいな」
「だな。このまま放課後までここで寝てるか」
「……なあ、リュートの家族っていいよなぁ」
「なに、突然」
「昔ながらの大家族、って感じする。温かそう」
「そうかな……」
「うちは一人っ子だからさ。兄弟とかうらやましい」
「どっちにしても俺ら高等部は今、全員寮生活だろ。それに」
どうせみんな、血の繋がってない疑似家族じゃないか。
そう言いかけてリュートは口を閉ざし、変わりに自分の「認識票」をジャージの胸元から引っ張り出し、表に掘ってある認識コードを読んだ。
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