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「たとえば」
唐突に愛妃が言った。僕は返事はしない。どうせ続けるだろう。
「たとえば、世界が終わったら、とかって。考えたこと、ある?」
「ない」
「そんなことないでしょ」
焼香の煙が揺れた。
「ないってば。僕は」
少し考えた、が。
「今を生きるので精一杯だよ」
「ふーん」
愛妃はこちらを見ていた。僕は今にも消えかかりそうな焼香を見つめている。
「じゃあ、今考えて」
「何を」
「今日世界が終わるとしたら、何がしたい?」
「うーん」
考えるふりをした。面倒だった。
「じゃあ、遊園地に行く、とか……」
なんでもなく、口からこぼれた言葉だった。
「よっしゃ」
「え」
手を引かれた。
「今からいこ」
「え、でも、時間」
時計はもう夕刻を指している。近くの遊園地まで行くにしても、電車で30分はかかる。
「いいの」
愛妃は僕の手を離さず、ベッドから立ち上がった。
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