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拓郎と呼ばれている男は少女の手を握り、支えながら歩く。
少女はふと気恥ずかしくなり俯いた。
「拓郎、どうして妾を助ける?」
「助け?ああ、いや別に目的なんてないよ、京が怪我してるのかと思ったらつい話しかけてただけ」
拓郎は頬を掻きながらそういえばどうしてだろうと首を傾げていた。
「お前も怪我してるではないか。」
「……こんなのかすり傷だしな」
かすり傷、もし妾が頭から血を流したら周りは大騒ぎするというのに
なんでもないような顔をするのだなこの男は……
「……平民はみな、このように怪我をするのか。」
「平民?」
は、とする清。
内心ドキリとしながら誤魔化すように首を勢いよく横に振る。
「あっ!う、や。
お前みたいなのはみんな頭から血を流しているようなものなのか、と」
「ぷっ、そんなわけないだろう?おいらのこれはおいらの自業自得」
清の様子に噴き出して笑う拓郎、
清はムッとしたがふと不思議そうな顔つきで拓郎を見る。
「自業自得?」
「ああ。桜の木を登ってたら落ちちまってコレよ、たく急に枝が折れやがるから」
なんと。
桜の木に登ったら枝が折れて落ちたというのか。
というかよく頭から落ちてもそんなあけすけといられるのだなと拓郎に感心して、口元を綻ばせる清。
「お前はうつけか?」
「いんや、すこしやんちゃなだけよ」
少し照れながら清をチラリと一瞥し、眼を逸らす拓郎。
頬が赤く染まり、すこし胸をドキドキさせていた拓郎の様子に清は気づかない。
「桜の木、庭にも咲いていた。あんな細い幹によく登ろうと思えるものだ。」
清の言葉に眉を寄せて、ん?と言いながら己の知っている桜の木を連想する拓郎。
「細いだぁ?」
「む、なんだ?」
「桜の木は細くねーよ、でっかいだろう?」
「いや、細い」
「なん、あれが細けりゃお前はなんなんだよ髪の毛か?」
「なにを言う!桜の木は細いだろう!?」
「なんかその辺に生えてる雑草と勘違いしとるね」
「しとうない!!」
「あー、わかった、お前は本当の桜の木を見たことがねーんだよ。本当の桜の木はデッケェよ!こーんなに!」
手を大きく上げて桜の木を表現しようとする拓郎に清は眉を顰めた。
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