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「それは龍桜丸が四つの時であったか…命にかかわる病にかかりおってな、桜の咲くころまでは生きられないであろうと医に言い渡され…私はそれを、その運命を変えられぬものかと…探しに行ったのだ…桜の花を…。城下の者たちに片端からたずねたが、桜には早すぎる季節であり、あきらめかけていたところに、早咲きの桜があるらしいと聞いてな。それで…何日もかけて探しもとめ、大きく立派な花と蕾をたたえた一枝を手折って城に持ち帰った。城では私がいなくなったという騒ぎばかりが大きくなっていて、弟は一人孤独に、小さい体で病と戦っていた。私は、その枕もとに桜の枝を置いてやり、お前は死を追い越したぞ、と言ってやった。そうしたら弟は翌日には食が戻り、一月後には外に散歩に出て行けるほどになった。そのころには私が渡した桜は散りはててしまっていたが、城中の桜が満開に咲き誇っていた。花の落ちた枝を手に、満開の桜を見上げて笑顔する弟の顔は、今でも忘れない」
「そうでしたか…龍桜丸様は、そのご恩をずっと返したかったのですね…お二人は、本心ではずっとつながっておいでだったのですね…それを、我々は…。お二人を引き裂いたのは、他でもない私たちだったのですね…」
「そうではない。私たちは、そうまでしても守りたかったのだ。家族を、臣下たちを、民を。だれに誤解されても、その信念だけは曲げまいと。私はそれを弟に、はっきりと口で伝えるべきであった。そうしておれば、こんなことにはならなかったかもしれぬ。すまなかった」
そう言って青桜丸は深々と頭を垂れた。
それは、今は亡き龍桜丸に対してのものでもあったろう。
世界には、そういったすれ違いにより、愛しいものを失うことがある。
しかし同時に、互いの間に死をはさむことで互いの愛に気づき、愛情が深まることもある。
それを身をもって教えてくれた龍桜丸は、やっぱりいつまでも自分の尊敬する殿なのだと菊千代は思った。
その涙は、龍桜丸のかわいた喉を潤せるだろうか。
その思考を最後に、菊千代は慟哭の渦の中に沈んでいった。
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