鬼龍の詩

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「ある意味喧嘩両成敗といったところだな。欲をだすことは悪いことばかりをもたらすものではないが、欲をあからさまに表にだすことは争いごとを生みやすい。そうした、他者からすればささいなことがきっかけで対立し、時に殺しあいとなり、時に国の興亡をも左右する結果になることを君たちは想像したことがあるかな。先見の明とは、そういうことではないかな。勝負に勝つ術が読めるというだけではなく」 少年たちは面白い顔はしなかったが、納得するところもあったのだろう、押し黙る。 そこに、少年たちをはやしたてていた大人たちが口をはさむ。 「おい、若造!俺達はこいつらのどっちが勝つのかで賭けてんだ。あやふやにされたら困るんだよ!」 「さあ、それはそちら様の勝手な都合だろう。私には関係のない話だ」 「関係ねえならはじめからすっこんでろ!」 男の一人がそう言って青年の胸倉をつかみ、殴りかからんとする。 青年はそれをかるくいなし、地面にたたきつける。 すると、青年のはだけた着物の下から、雄々しく口を開く龍と舞い散る桜花を描いた入れ墨がのぞく。 「あんた…まさか…」 「うん。そのまさかさ。ばかをやって殿様の座をおわれた、うつけの龍桜丸(りゅうおうまる)だ」 そう言って龍桜丸はにへらと笑う。 「お前、自分の立場がわかっているのか?一応は武士とは言え、地位も何もかもを奪われた馬鹿殿が、こんなところをうろついているとは、死にたいのか?いや…今ここで殺してやる!」 それを合図に、まわりにいた男たちが一斉に龍桜丸に襲いかかる。 「おう、これはまずい」 龍桜丸はそう言うと、男たちの攻撃をひょうとかわしながら逃亡の機をうかがう。
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