鬼龍の詩

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「私はずいぶんと目の敵にされているな。これも、大名様(あにうえ)の圧政の見返りかな?」 そう言って龍桜丸は皮肉に笑む。 「そうだ。大名だけでなく、お前の愚かさが生んだんだ、この腐った国政を」 「私は嫡男であったというだけで城の主になれた。それだけで満足してしまった。いや、その逆かな。私は閉じこもっているのはあまり好きではない。こうしてふらふらするのが性にあっている」 「この、うつけが!お前ら一族のおかげで俺達がどんな辛酸をなめてきたか…」 そう叫ぶように言って、男の一人が龍桜丸に向かって鎌をふりおろす。 よけられることを想定した攻撃だったが、それは龍桜丸の右目に深々と傷をつけた。 男たちはぎょっとしてこおりつく。 大名の座をおわれたとは言え、その権力はまだ健在。 流刑に処せられたとしてもきっとここに戻ってくるだろうことは明らかなほど、野心をもった人物、それが龍桜丸だった。 鬼龍(きりゅう)とあだなされるほど、その才覚は陰にも陽にも傑出していた。 その龍桜丸がなぜ城を出ることになったのか、本当のところは誰にもわからなかった。 ある者は腹違いの兄青桜丸に謀られたのだと言い、ある者は仁徳にもとる大罪をおかしたのだと噂した。 そんななかにあってもこのひょうひょうとした態度である。 それだけで怒りを買うことは明らかだった。 龍桜丸はそれを楽しんでいるようにさえ見えたが、本心は暗夜の水底のように得体が知れなかった。
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