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「龍桜丸様、こんなところにいらしたのですか」
きっちりと着物をきつけた少年が、あわてた様子で龍桜丸にかけよってくる。
その少年とは思えぬかわいらしさに男たちは興がさめたのか、文句をたれながらもそれぞれの帰途について、騒ぎは御破算となった。
「おう、菊千代。どうした?」
「どうしたもこうしたもありません。殺されでもしたらどうするつもりだったのですか」
「それはないさ。ここの民は皆根の優しいやつらばかりだ。口の汚い頑固者が多いが、それは不器用な優しさのあらわれだ。お前もそう思わないか?」
「ええ、まあ。私自身平民の出ですから、殿よりはわかっているつもりです」
「またその名で呼ぶ。私はそんな大層な呼ばれ方は好かぬ。今、この国の殿様は兄上だ」
そう言って龍桜丸は近くの甘味処の一席に腰をおちつけ、だんごを二人前注文する。
そして、向かいに座った菊千代に向かってとつとつと語りだす。
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